【ベーシックインカムの簡易考察】平等と公平の違い
『ベーシックインカム(BI)が人を幸せにする』と言う説は結構前から、日本のみならず海外でも語られ、日本でも多くの著名人が賛同しています。
本当に幸せにするのでしょうか?
そして誰を幸せにするのでしょうか?
■--------そもそもBIとは--------■
簡単に言うと「最低所得補償として国民全員に一律で同じ額を支給しよう」というもの。
アイデア自体は18世紀末には存在しましたが2000年代になってから本格的に語られ始めたと思います。
誤解する人もいますが、BIは『今の社会保障制度に加えて支給する』ではありません。
社会保障の『代わりに』支給するのであり、年金や生活保護等の社会保障はBIの代わりになくなるというのが基本的な主張の内容です。
また、支給額は、原則に立てば『最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で定期的に支給する』ですが、実際は財源の問題もあります。
日本で主に語られる額は大体、月5万円から10万円の間です。
■--------そもそもBIを望む立場--------■
BI論は主に3つの立場と視点で語られます
【(1)国家の立場】
社会保障の中でもとりわけ年金は国家財政を大きく圧迫します。
年金は多くの国が『賦課方式』つまり、現役世代が年金保険料を納付し、そのお金で今の高齢世帯を養うというものです。
つまり、今自分が納付している額は自分の年金を積み立てているのではありません。
自分の納付額はあくまでも自分の貰う「権利」に繋がり、自分がもらう年金は将来の世代が払います。
この仕組みは、インフレに強い特徴があります。
将来自分のもらう年金は、自分の後の現役世代が払う額で賄われるので、インフレ分も調整してくれます。そのため自分の納めた額の何倍もの年金が返ってきます。
しかし、この仕組みは人口が増えることが前提です。
日本が特に顕著ですが、長寿により高齢者が増え、少子化により現役世代が減ると破たんする仕組みです。
この問題は先進国の多くがいずれ直面し得ます。
『社会保障はいずれ破たんする』この前提に立ち、今のうちに社会保障を廃止し、BIに切り替えようというのが、国の立場でBIを語る人の背景です。
つまり、社会保障費の削減です。
これは『小さな政府論』に基づきます
【(2)現在働く労働者の立場】
これがBI賛成派の多数かと思います。
確かに、現在のキャッシュフローから見たらいいことずくめです。
何せ、収入が増え、かつ年金納付額が無くなるのです。
金銭に余裕ができれば、生活も豊かになります。
また、特に時間集約型の労働者は、BIによる収入が増えた分、多少労働時間を減らすことも可能になります。
BIで収入が増えた分、今まできつい労働環境で働いていたけど、多少給与を減らしても楽な職場に転職するという選択肢も生まれます。
また、BIにより、所得のセーフティーネットが作られることで、本当は冒険してやりたい事情ができなかったのだが、BIで安心感を得たことで勇気をもって飛び出せるという考え方も多いです。
つまり『「BIにより金銭的余裕と時間的余裕が生まれ、労働に人生を縛られず、生活と心の自由と安定につながる』というものです。
これがBI賛成論者の一番多い理由と思います。
【(3)劇的な雇用情勢の変化と失業者の増加に備える立場】
近年の急激なグローバル化とテクノロジーの発展に伴い最近特に増えてきた立場です。
特に、人工知能の急激な進化は、いずれ本当に人間の仕事を取って代わることも夢ではないと思わせます。
そうすると、ITに仕事を奪われる人が膨大に増えると言う想定が発生します。
くわえて、テクノロジーの進化は物理的な距離を縮め、急速に労働市場のグローバル化を醸成します。
つまり、ITにそもそも人間の仕事を奪われ、その上人間がやる仕事も、日本より遥かに賃金が安い国の人と価格競争の発生が想定されます。
その結果、日本人全体の中の多くの人が仕事からあぶれるが、
だからと言って無くなった仕事に代わる新たしい雇用創出は速度が追い付かない。
だから『働かなくても/働けなくても、それでも生きていける新しい社会の在り方』のためにBIが必要だという意見です。
■--------忘れ去られた立場--------■
この中に、登場していないけども、BI導入の大きな影響を受ける立場があります。
ナンバリング(0)を振ります。
【(0)生活保護や年金などの社会保障を糧として生きる人】
BIの前提が社会保障を無くすことなので、この方々達が一番影響をうけます。
■--------私見と考察--------■
以下、(0)を加えた4つの立場について考察を書いていきます。
先に結論から言います。
私はBIに反対です。
以下、考察を記載します
尚、仮定としてBIの支給額は、この元ニュース記事で堀江さんが提案する月8万円とします。
◆---【(0)生活保護や年金などの社会保障を糧として生きる人】に関して
生活保護や厚生年金受給者は月8万円を超える給付を受けています。
それが廃止になるのは、つまり、不利益を被る立場です。
月8万円で生活するのは、正直日本のどこでも厳しいと思います。
まして生活保護受給者は取り崩す資産もありません。
また、大抵の生活保護受給者、特に全く働かず全額受給する人は、大抵、心身どちらかの病を抱えていて働けないケースが多いです。
年金受給者に関しても、老齢年金受給者にせよ、もちろん障害年金受給者な猶更、健康状態が働けないことが多いです。
つまり、彼らは労働による所得の上乗せが期待できず、純粋に月8万円で生活を強いられます。
この非常に困難な状況を課す時点で、私はBIに反対です。
◆---【(1)国家の立場】に関して
国家としては支出を減らしたいでしょう。
しかし、本文『BIは人を幸せにするか?』の考察です。
国家の事情はスコープ外なので評価要素に入りません。
また「社会保障費の財政健全化」は果たして本当に社会保障を無くすことだけが答えなのでしょうか?
あくまでも財務バランスを均衡させることが論点なのであり、BIありきではないはずです。
◆---【(2)現在働く労働者の立場】
確かに、所得が増えるのは嬉しいですし、時間の余裕も嬉しいです。
ですが、いくつか疑問があります。
①皆さんそんなに時間集約型の労働ですか?
所得が月8万増えたから、月給の中で8万円が占める割合分、労働時間を減らそうなんて器用なことができるんです?
結局、労働時間はBIで減らすのではなく、労働法規や、私企業の生産性向上で減らすのではないでしょうか?
(実際は、年金保険料納付分の控除も減るし、家族がいれば配偶者と子供のBIも世帯年収に加算されますのでもう少し余裕は出ますが)
②BI増加分、本当に全部使います?
今、そもそも赤字に近い状態ならBIでようやく生活のキャッシュフローが安定しますね。
でも、もし今BIなくても生活できているのなら、将来の年金が無くなったことの備えとして、貯金する又は運用する人は多くありません?
BIの代わりに社会保障がなくなったのです。
明日、生活保護や障害年金に該当するような健康上のリスクに遭遇したとしても、生活保護も年金も、もうないのです。
そうすると、結局、BIの使い道が社会保障削減の穴埋めとしして、貯金・運用・民間保険に回ることになり、何も生活がが豊かになってないと言う可能性がある人、結構いませんか?
③BIで夢を買えます?
BIのおかげでセーフティーネットができて飛び込める?
本当です?
仮に独立失敗して、しばらく無収入になったとして、貴方は月8万円で生活できるんです?
逆に言うと、貴方の夢は、たった月8万円入ってこないことが理由で夢へのチャレンジを諦めていた程度のものなのですか?
夢の成功は所得を増やさないのですか?
あるいは、「所得より夢とやりがいとはいえ、これ以上所得が下がるのもきつい。そこにBIが出来て、所得が減る分の補てんになるので夢を選択できる」
こういう人もいるでしょう。
貴方の夢は年間100万円以下の価値なのですか?
そも、夢を仕事に変えるときに、所得が減るのが前提なのは何故ですか?
言葉に現実感を感じません。
少なくとも、この理由は、生活保護者や年金受給者に大きな不利益を強制的に与える理由にはならないと思います
◆---【(3)劇的な雇用情勢の変化と失業者の増加に備える立場】
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技術の深化と発展に伴い仕事が奪われるという話は産業革命の頃にも存在し、機会を打ち壊すラッダイト運動もありました。
しかし,近現代の経済は機械化と効率化により空いた労働リソースを、イノベーションにより『今までなかった新しい仕事』を創出し、そこで空いた労働リソースのシフト・活用で発展しました。
効率化によりリソースと時間に余裕が出来たことで、『今まで出来なかったことができるようになる』と『今までなかった仕事が産まれる』により、新たな雇用が創出されます。
★
理想論と言われるかもしれません。
しかし、テクノロジーの発展が便利さを超え人の仕事を奪う速度と、却って出来ることが増える速度、どちらが早いか、私は悲観はしません。
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また、この話は結局のところ『前払い型失業保険』の意味合いです。
そもそも、仕事を奪われた代わりに月8万で生活は成立しますか?
月8万円で『働かなくても食べていける新しい世界』が出来るのですか?
結局何がかしら働くわけで、その瞬間に【(2)現在働く労働者の立場】です。
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そうすると結論は同じです。
少なくとも、この理由は、生活保護者や年金受給者に大きな不利益を強制的ん与える理由にはならないと思います。
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そもそも、『技術が発展して人間の仕事が奪われるだろう』『BIによって仕事しなくても良い社会が出来るかもしれない』という『推察』はBIという社会実験をするには根拠が弱いのです。
その実験は、想定した通りになる可能性が高いとは思えませんが、その実験により大きな不利益を被る存在は確実にいるのです。
リスクとリターンが見合いません。
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そんな膨大な社会実験をするくないらな、イノベーションを産むための社会実験に投資しませんか?
・イノベーションが新たな仕事を産み、テクノロジーが仮に仕事を奪ってもそれ以上の仕事を産む
・グローバル化で価格競争が発生しても、価格競争に負けない付加価値を持つ労働力で勝負する
・その枠組みから漏れた人は社会保障に基づきセーフティで救済する
・・・これで良いのではでしょうか?
■--------平等と公平の違い--------■
『BIは平等だから良い』という人もいます。
しかし、平等と公平は似ているようで別物です。
下記の図の左が『平等』右が『公平』です。
違いの意味が分かりますでしょうか?
金持ちにとってのBI月8万円はさして生活に影響を与えません。
しかし、現状の生活保護者にとって、社会保障の廃止とBIへの置き換えは致命的です。
私は、平等よりも公平さが人の幸せに寄与すると思います。