ジェファーソンからの手紙

就業・働き方改革、キャリア、組織マネジメント、IT、政治、社会、文化などについて徒然に書きます

【リクルートスーツの簡易考察】誰も求めていない「ブラック」な制服

 

昨今の売り手市場では早々に内定を得ている人も多いでしょうが、まだ就職活動を頑張る学生も多々います。

暑い中、リクルートスーツを着て街を歩く姿は本当に暑くて大変そうです。

まして、黒のスーツは熱を吸収するので大変そうです。

 

そもそも何で黒なんでしょう?

 

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もう、何年もの間、最近の就職活動の常識では『スーツの色は黒』です。なので、スーツ店では「就職活動用のスーツでグレーや紺でも大丈夫なのでしょうか?」という質問が来るらしいです。 

そして、スーツ店も「いやあ、紺はちょっと・・黒が無難ですよ」という回答もらう人もいると、実際に昨年就職活動した人に聞きました。 

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これは違和感です。 
私が言いたいのは単に「昔はリクルートスーツと言えば紺だった」とか「最近の流行は黒らしい」とかそういう話ではありません。 

堅苦しいこと言いますが、スーツの色で伝統的なのは紺・ネイビー・チャコールグレーあたりです。これは流行とかそういう話ではありません。 
日本だけでなく、欧州でもアメリカでも、昔も今も「無難」と言えばその色です。 

さらに言えば、「黒のスーツなんて喪服か結婚式かパーティーかよ」というのも、日本だけでなく欧州でもアメリカでも常識だったはずです。 
少なくとも、まっ黒はビジネスシーンで使うスーツの色ではありません。 
これは流行とかそういう話ではなく、ある意味マナーです。 

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もちろん、スーツの着こなしはいろいろアレンジがあります。 
黒「基調」のスーツでおしゃれなビジネススーツはあります。 
でも、真っ黒はありません。 
紺・ネイビー系統やグレー系統、あるいは茶色ベースで、ウインドペンにするとかフランネルにするとかストライプにするとか、あるいは3ピースにするとか、色々と着こなしの演出はあります。 
自分をどうビジネスマンとして演出するかというのがスーツ仕立てと着こなしのセンスです。 

しかし、繰り返しますが「真っ黒」はおよそビジネス伝統的なスーツの色ではなく、むしろ奇をてらったメッセージ性が強いセンスだという印象です。 
※いや、「職場は厳正な場所だ。だから私は礼服として黒を着る」という意思があるなら別ですけど。 

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私自身、以前、業界の中の大手会社で採用したことあります。 
また、今も大手各社の人事や経営企画とはこ話す企画はありますが、この感覚は同様でした。 
つまり、ここで大事なのは「採用する側」はほとんどの会社で「黒を着てこい」なんて言わないし、本人も真っ黒なスーツは避けているのです。 
じゃあ、なんでそうなるんでしょう? 
採用する側に存在しない常識がなんで就職活動生の中ではまかり通っているのか、不思議な話です。 

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スーツ店の人に聞いてみました。 

数年前に一斉に大手スーツ会社が「就職活動なら黒」をコンセプトとして打ち出したようです。 
そこから、就職活動スーツの黒比率が急激に上がったようです。 
今では70%以上が黒になり、集団面接はさながら葬式のような光景になったようですが、少なくとも2000年前半はまだ紺・グレーが多かったようです。 

では、なぜ大手スーツ会社はいきなり黒を推してきたのでしょうか? 
スーツ会社は、「リクルートスーツはなるべく無難に」というコンセプトをずっと継続しているはずです。 
つまり、あえて奇をてらうというわけではないと推察します。 

 

ちょうど、リクルートスーツに黒が流行りだしたころから、若手社会人の中でもビジネススーツに黒を使用する人が増えたようです。 
これは、単に「流行」というわけではなさそうです。 

理由は「不況」です。 

どういうことかというと、不況でスーツにあまり金をかけられない若手社員が増えました。 
一方、若手社員は段々と結婚式等に参加する機会が増えます。 
しかし、ちゃんとした礼服を別にあつらえるほどの経済的余裕がありません。 
そこで、ビジネスと式典兼用で使う用途で「黒」が増えたのです。 

そして、ビジネススーツに黒の需要が増えたのを見て「最近の社会人の傾向は黒」と判断して黒をリクルートスーツのラインナップに入れたのがきっかけのようです。 

一度、黒の傾向ができるとみんな「右へ倣え」で黒を着始めた、これだけのことのようです。 

つまり、若手社会人の苦肉の策が、いつの間にか「常識」になったようです。 

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就職活動の指南サイトなるものを色々検索して見ると面白いです。 

・スーツは原則黒。黒の方が有利なのは常識。どうしても個性を出したいなら紺などで行くのも可能だがお勧めはしない 
⇒何を言ってるんだ・・有利な色なんてないです 

・ストライプはタブー 
⇒そんなルール誰が決めたんですか? 

・袖口からシャツが見えるのはNG 
⇒逆だよ逆。袖口から1センチくらいワイシャツの先が出るのが正しい仕立て方 

・女性のパンツスーツはNG 
⇒意味が分かりません。確かに一般的にスカートよりもパンツスーツの方がアクティブな印象を与えますが、自分の売りをアクティブさと考えて演出するなら問題はないはずです。少なくともそんな基準を設けている会社を私は見たことも聞いたこともありません。

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人事部じゃなくても、配属可能性がある現場の主任・係長以上なら面接したことがある人も多いと思います。 

恐らくたいていの会社では、スーツの色を減点や加点の材料にするなんて基準はないはずです。 
(私も全部の会社はわかりません、もしかしたら一部の業種や会社ではあるのかもしれませんが、今まで多くの業種の大手会社の人事担当と話してそんな話を聞いたことがありません) 

大抵の会社で採用基準はいたって明白だと思います。 
言い方はいろいろありますが、大きくは二つの基準しかないはずです。 
①この学生と一緒に働きたいと思えるか 
②この学生は将来の我が社の成長を担えるか 

もちろん、赤いスーツに青のシャツで来たら「お前はルパン三世か?」とは思います。 
服装について聞くでしょう。 
でも、その程度です。 

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私個人の感覚で言えば、ファッションは「ビジネスマンとして自分をどう演出できているか」だけだと思います。 
黒だから有利だとかそういう話ではありません。 
じゃあ、ルパンや次元のコスプレでもいいのかと言えばそれも違います。 

ビジネスマンとして、その会社の顧客層に自分の顔を売れるかどうかです。 

ピンストライプだろうがウインドペンだろうがスリーピースだろうが、自分をちゃんと演出できていればいいですし、逆に奇をてらっているのに全く頓珍漢な着こなしであれば、自分をわかってないんだろうなとは思います。 
(別にそれだけで落とすとかないですが) 

要は、自分で自分のファッションを「ビジネスマンとして」説明出来ればいいのですし、茶髪でもそれが説得力と納得感あればいいと思います。 

端的に言えば、 
(1)作業服のようなナイロン生地で、ウエストも首回りも全然あっていなくてアイロン跡がテカテカ光る吊るしの黒のスーツと、 
(2)ちゃんとフィットしていて、全体的にその人の個性をちゃんと演出できているフランネル仕立てのチャコールグレーのオーダースーツと比較して、 
(1)黒が有利なんてありえません。 
※別に金かけた方がいいという話はしていません。黒が有利なんて規則はなくて、自分に合うものがいいというだけの話です。 

そもそも、私は「リクルートスーツ」という言い方が嫌いです。 
就職活動だろうが、実際のビジネスだろうがスーツはスーツです。 
ビジネスマンとして自分の顔を売るのに相応しい服を着てくればいい、それだけのことです。 

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採用する側が誰も求めていない黒のスーツを勝手に学生側が常識だと決めつけて、その常識が浸透する。 
これが今の日本社会を象徴しているのかもしれません。 

ブラック企業」というのも、もしかしたら社員たちが勝手にブラックな社風を醸成して加速している側面があるかもしれません。 

そう、今、勝手にブラックな制服を自分たちでルール化しているように。 

ブラック企業は、誰か一人だけでは作れません。

ブラックなルールを作る「みんな」」で作ります。

この事象に名前を付けるなら『みんなで作るブラック企業』と呼びたいです。

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